不適切保育を防ぐチェックリストの作り方と実践法|文化づくりとICT活用まで解説
- emcjpn
- 30 分前
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前回の記事では、なぜ不適切保育が起きるのか、身近な事例を交えて考えました。どの園でも起こり得ることだからこそ、小さな違和感に気づき、話し合える環境が大切です。
今回は、その気づきを実践につなげるための「チェックリスト」の作り方や、職員みんなで安心の文化を作る方法、ICTを使った安全管理の工夫をご紹介します。
読んでいただくことで、園の安全や信頼を守る手助けになれば嬉しいです。
>>前回の記事はこちら
不適切保育を防ぐ!チェックリストの作り方

■ チェックリストは“気づき”のためのツール
チェックリストは、職員を評価するための“チェックマークを埋める”道具ではありません。
「あれ? ちょっとおかしいかも」「この対応、子どもはどう受け止めただろう?」と感じる小さな違和感をキャッチするための“気づき”のツールです。
例えば、ある日「今日は時間がなくて、声かけがいつもより短かったな」と思ったら、そのタイミングでチェック項目を確認し、「なぜ短かったのか」「子どもにはどう響いたか」を振り返る機会にできます。
このように「ふとした疑問」を拾える仕組みとしてチェックリストを活用すれば、現場の“見逃し”を減らし、保育内容の質を高める一歩になります。
■ これだけは入れたい基本のチェック項目
チェックリストを園で使う際、まずは以下のような視点を必ず入れておくと安心です。これらは、全国保育士会が公表している「人権擁護のためのセルフチェックリスト」の内容も参考にしています。
言葉かけ・対応の視点 | 子どもの話を途中で遮っていないか?「~すべき」「~させるべき」という口調になっていないか? |
安全・環境の視点 | 午睡中や移動中など“目が届きにくい時間帯”を放置していないか?活動中の配置や見守りに無理がないか? |
職員同士・情報共有の視点 | 異変・気になる点を職員間で報告・共有できていたか?急な代替対応時に確認が抜けていなかったか? |
個別配慮・プライバシー の視点 | 家庭背景や個性を考えず、画一的な対応になっていないか?着替えや排泄などで子どもの尊厳を損なっていないか? |
これらの基本項目をまずチェックリストに入れ、「今週は言葉かけに注目する」「次回は午睡時の確認に注目する」など項目を週ごとにローテーションさせると、日常の視点が広がっていきます。
園の実情に合わせてカスタマイズするコツ

「基本項目だけで十分!」ではなく、園の実情に応じてカスタマイズすることで、より実効性の高いチェックリストになります。
以下のようなポイントを参考にしてみてください。
運営形態・子どもの 年齢構成に合わせる | たとえば、乳児中心のクラスなら「午睡中の声かけ・起こし方」、幼児中心で動きの多いクラスなら「活動/移動中の安全確認・言葉かけの頻度」など、園独自のリスクに対応する項目を追加。 |
“よく起きる場面”を 反映させる | 保護者の迎え時間が遅くなる傾向がある、代替保育が多い、行事前後の抜けがある…といった現場の声を反映し、「保護者迎えの待機中の言葉かけ」や「行事前の配置見直し」などを盛り込む。 |
定期的な振り返りで 項目を更新する | チェックリストを作ったら終わりではなく、1〜3ヶ月おきに「この項目、使えてる?」「追加すべきことはない?」と職員と話し、必要があれば項目を増やしたり言葉を変えたりします。例えば「この春から長時間保育が始まった」「外国籍の子どもが増えた」といった変化を反映。 |
項目の重みづけを しない | 「この項目は必須」「この項目は補助」といった区別をあえてせず、すべてを“振り返る視点”として扱うことで、「どれかを省いてもいい」といった無意識の手抜きを防げます。 |
このように、園の実態と職員の視点を取り込んだチェックリストは、現場に“定着”しやすくなります。
チェックリストを“形だけ”で終わらせないために

■ 日々の振り返りに取り入れる習慣を
チェックリストは作るだけでは意味がありません。大切なのは、日々の保育の中で自然に振り返る習慣に組み込むことです。
例えば、朝の引き継ぎや夕方の振り返りの時間に、「今日の言葉かけや安全管理はどうだったか」と項目を見ながら確認するだけで、職員の意識が少しずつ変わっていきます。
毎日のちょっとした習慣が、気づきを積み重ね、結果として子どもに安心・安全な環境を提供する力になります。
■ 職員みんなでつくる“安心の文化”
チェックリストの効果を最大化するには、園全体で“安心の文化”を作ることが重要です。
職員が互いに声を掛け合い、疑問や改善点を話せる雰囲気を作ることで、問題を個人任せにせずチームで共有できます。
例えば、週に一度のミーティングで「チェックリストで気づいたこと」「改善した工夫」を共有するだけで、職員同士の学びが増え、園全体での保育品質向上につながります。
この文化を作ることで、チェックリストは単なる紙の道具ではなく、園の信頼と安全を守る日常のツールとして定着します。
■ ICTで安全を“見える化”する

不適切保育は、多くの場合「時間に追われて気持ちに余裕がなくなる」ことがきっかけで起こります。
チェックリストや振り返りの仕組みを整えても、現場の忙しさそのものを減らさなければ、根本的な改善にはつながりません。
そこで注目されているのが、ICTによる安全管理の「見える化」です。ICTを活用することで、保育中の子どもの状態を客観的に把握し、職員の目と手を補うことができます。
例えば、午睡や活動中の様子をカメラやセンサーで記録し、異常や注意が必要な動きを自動で検知する仕組みを導入すれば、危険の早期発見や職員の負担軽減が可能になります。
さらに、記録データを園内で共有することで、情報伝達の漏れを防ぎ、園全体で安全意識を高めることにもつながります。
一例として、カメラ型午睡チェックセンサー「ベビモニ」は、AIが子どもの寝姿勢をリアルタイムで観察し、うつ伏せ寝などの危険姿勢を検知するとアラートで通知。記録も自動で作成されるため、午睡チェックの負担を軽減し、保育士が子どもと向き合う時間を増やせます。
まとめ

不適切保育の防止は、一人の努力では成し得ません。
園全体で共通の目線を持ち、「日々の小さな違和感」に気づき合える関係を築くことが、最も確実な予防策です。
チェックリストは、そのための“会話のきっかけ”でもあります。形だけに終わらせず、職員同士が安心して意見を交わせる園文化を育てていきましょう。
そして、ICTなどのツールもうまく活用しながら、「安全で、働きやすく、信頼される園づくり」を一歩ずつ進めていくことが大切です。



